やさしい商業登記教室 第11回 株式の種類(その2)

A…やさしい商業登記教室主宰者
B…商業登記を愛する司法書士事務所のOL(司法書士補助者)
C…中小企業の総務担当者。目下、資格試験受験準備中

第11回 株式の種類(その2)

A 今回も前回に引き続いて株式の種類です。今日は、まず前回述べた6種類の種類株式について、簡単に説明してみましょう。

B、C お願いします。

A ①の「利益の配当について内容の異なる株式」とは、利益の配当について内容の異なる株式(商法222条1項1号)で、他の株式に比べて優先的取り扱いを受ける株式を利益配当優先株、劣後的取り扱いを受ける株式を劣後株または後配株、標準となる株式を普通株といいます。

 ②の「残余財産の配分について内容の異なる株式」とは、会社を解散した場合に残余財産が出たとき、その配分について、内容の異なる株式のことです(商法222条1項2号)。

 残余財産の配分についての定めは、利益配当優先株の発行の場合に一緒になされることが多いようですが、これを定款に定める場合、確定金額をもって定める必要があるかどうかの問題があります。従来の登記実務は、確定金額をもって定めるべきであるとする見解であったようですが、東京法務局で受理されたソニーのトラッキング・ストックは、従来の見解を若干修正しているようです。

C トラッキング・ストックとは、何んでしょうか。

A トラッキング・ストックとは、利益配当額が会社が営む特定の事業(事業部門・完全子会社等)の業績に連動する特定事業連動株式のことで、これは、「利益の配当について内容の異なる種類株式」です。

 ③の「株式の買受けについて内容の異なる株式」とは、会社による株式の買受けが予定されている株式です(商法222条1項3号)。この種類株式は、自己株式の取得が解禁されたことに伴って認められたもので、買受ける株式の数、その時期、会社が買受けの義務を負うか負わないか、買受け価格等買受けの手続きについては定款に定めることになります。

 なお、買受けは、配当可能利益の限度でなされることになりますが、買受けた株式は、これを保有することも(金庫株)、消却することも出来ます。消却すれば次に述べる償還株式と同様の機能を果たすことになります。

 ④の「利益を以ってする株式の消却について内容の異なる株式」とは、株式発行の段階で消却が予定されている株式のことで、償還株式といいます。実務上は、利益配当優先株を償還株式にする例が多いようですが、償還株式を発行する場合には、定款に、株式の内容として、償還株式の数、消却の時期、方法、(強制消却か、任意消却か)および償還価額等の償還条項を定めなければなりません。

 ⑤の「株主総会において議決権を行使することが出来る事項について内容の異なる株式」とは、すべての事項について議決権のない株式(完全無議決権株式)または特定の事項について議決権を有しない株式(一部議決権制限株式)を合わせて議決権制限株式といいます(商法222条1項5号・4項)。1株あたりの議決権数に差異を設けることはできません。

 ところで、議決権制限株式は、例えば、いわゆるベンチャー企業において、経営権を確保したいとする創業者株主と利益配当を得るために参加するいわゆるベンチャー・キャピタルと呼ばれる投資家株主との間の利害関係を調整するために、投資家株主に利益処分案についてのみ議決権を与えるような場合等に発行されるようです。
 なお、議決制限株式の総数は、発行済み株式の総数(単元株制度を採用する会社にあっては総単元の数)の2分の1を超えることは出来ません(商法222条5項・6項)。

 最後に、⑥の「取締役・監査役の選任について内容の異なる株式」についてですが、定款に「株式の譲渡について取締役会の承認を要する」旨の定めのある会社は、取締役または監査役の選任について、内容の異なる種類の株式(たとえば、「甲種類株式を有する株主が4人、乙種類株式を有する株主が2人、それぞれ取締役を選任することができ、丙種類株式を有する株主は取締役の選任をすることができない。」というような株式)を発行することが出来るというわけです(商法222条1項6号)。

今日のレッスンはこの程度にして、次回もう一度「株式の種類」をとりあげてみましょう。